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私実は何も知らないんですよ。

私実は何も知らないんですよ。ご両親が亡くなって町に来て,あの店にお世話になってる事しか。」

 

 

「だったら聞く相手間違ってんだろ。三津本人に聞けばいい。」

 

 

斎藤を使った自分を棚に上げて直接聞いて来いと言い放った。

総司はそれが出来ないから困ってると口を尖らせた。

 

 

「土方さんも気付いてるでしょう?最近三津さんが幹部のみんなを避けてる事ぐらい…。」

 

 

「まぁな…。」https://www.easycorp.com.hk/en/accounting

 

 

最近は一緒に食事もとらなくなった。

勝手に仕事を見つけて土方から離れていく。

そして護衛と称して引っ付いて来る隊士とずっと一緒だ。

 

 

「土方さんはこれでいいんですか?いいならきっぱり小姓の仕事はもういいって言ってあげて下さいよ。」

 

 

「余計なお世話だ。お前こそろくに口利いてもらえなくて上の空で仕事してんじゃねぇだろうな。」

 

 

いつもなら一言二言多い総司が押し黙った。

三津の事となると事情が違うらしい。

 

 

「女に嫌われたくなくて,もう人は斬れねぇか?」

 

 

「まさか!私は武士ですよ?

それに嫌われるのには慣れましたし。」

 

 

悪戯っぽく笑ってみせるが元気がない。

三津に嫌われたくないのが見え見えだった。

 

 

「ただ三津さんが心配なんです…。おたえさんと一緒にちゃんとご飯食べてますかね?

それに毎日尋常じゃないぐらい魘されてるし…。

あれはきっと死人が三津さんを苦しめてるんです。」

 

 

自分も経験したから分かるんだ。

でも何故三津が同じように苦しんでるのか。

 

 

「まさか三津さんが人を殺めたなんて事が…?」

 

 

総司は一人で悪い想像をして狼狽えた。

 

 

「うだうだ煩い奴だな。

あいつに聞けないなら頼る所は一つだろ。」

 

 

土方は重い腰を上げた。総司を従え廊下を歩いていると中庭から三津の笑い声が聞こえてきた。

 

 

久しく聞いていなかった声に思わず足を止めた。

 

 

『楽しそうにしやがってあの野郎…。

俺には引きつった顔しか見せねぇ癖に。それに屯所内でもつきまとわれて迷惑してんじゃなかったのかよ。』

 

 

苛立ちを全面に出しながら足は中庭へと踏み出していた。

近付いてくるただならぬ殺気に三津を囲んでいた隊士が道を空けた。

 

 

「主人が出掛けるってのに見送りなしとは寂しいじゃねぇか。」

 

 

隊士達を掻き分けて進み出ると三津の顎を持ち上げた。

こうして息のかかる距離で正面から顔を見るのも久しい。

 

 

こうやって捕まえていないと三津は傍に居てくれない。

自分には笑ってもくれないのが土方から余裕を奪う。

 

 

「いっ,行ってらっしゃいませ…。」

 

 

「門まで見送りに来い。」

 

 

『こんな所に突っ立って,引きつった笑顔で言ったので許されると思うなよ。』

 

 

強引に手を引いてる今も三津は渋々と言った顔でついて来ている。

 

 

『可愛いくねぇ…。』

 

 

そう思いながらも離す気のない自分がみっともないと気落ちした。

 

 

 

 

 

 

「気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 

 

「心がこもってない。やり直し。」

 

 

深々と下げられた三津の頭に拳骨を落とした。

 

 

「いった!」

 

 

でもその拳骨の痛みすら懐かしい。

それだけ土方から距離をとっていたのかと三津自身も改めて気付いた。

 

 

「そんな蔑ろな見送りしやがって…。これが今生の別れかもしれねぇのによぉ。」

 

 

「え?」

 

 

それってどう言う意味?

きょとんと土方の目を見つめたけど,すぐに背中を向けられてしまった。

 

 

「では行ってきますね!」

 

 

総司は満面の笑みでひらひらと手を振り,土方の背中について行った。

 

 

「今生の別れ…か。無きにしも非ず。」

 

 

「斎藤さん…いつの間に…。」

 

 

気付けば袖に手を入れた斎藤がゆらりと立っていた。

三津の体は咄嗟に距離をとった。

 

 

「介錯を引き受ける人間の隣りには立ちたくないか?」

 

 

「そう言う訳じゃ…。」

 

 

「我々はいつも死と隣り合わせ。今朝ピンピンしてても夜にはどうなってるか分からないからな。」

 

 

斎藤は独り言のように呟くと,ふらふら屯所を出て行った。

 

 

最近やたらと死と向き合わされる。

一人取り残された三津はしばらくその場に立ち尽くした。