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その日入江は三津の布団に潜り込んだ
その日入江は三津の布団に潜り込んだ。近くに居るのに会えないもどかしさに悶えた。 『三津は私の事を怖いと思っとるやろか……。』 入江は押し倒した事をひたすら後悔していた。きっとあの恐怖に満ちた顔を土方も見下ろしていたんだろうなと思った。 この一件が片付いても距離を置かれるのではと新たな不安に苛まれながら眠りに落ちた。 翌日,千賀は侍女を連れ和菓子屋へ向かった。中に数人客が居るのを確認して,まず侍女が和菓子屋へ入った。いつもここへ買いに来る毛利家の侍女だから,女将は丁重にもてなした。 「そう言えば,後継ぎが出来たそうですね。」 侍女の言葉に女将は気を良くして満面の笑みを見せた。 「えぇ。なので店も続けられて藩主様にもうちの菓子を召し上がっていただけると思ったのですが……もしかしたら破談になるかもしれません……。」 女将は白々しく表情に陰を落とした。それから他の客達にも語りかけるかのように話し始めた。 「木戸様の奥様が……私のその相手を気に入ってらして……私達の仲を引き裂いておられるのです……。現にあんなに毎日会いに来てくれてたのに,ぱたりと来なくなりました……。」 『よくもまぁ平然と嘘が吐けたものね。』https://www.easycorp.com.hk/en/accounting 千賀は怒りをどうにか押し込めて,努めて穏やかな顔を作って暖簾をくぐった。「御免ください。今日は私に選ばせていただけないかしら? お久しぶりね,覚えてらっしゃるかしら?」 「千賀様っ!わざわざお越しいただきっ!」 女将は血相を変えて深く頭を下げ,千賀の名を聞いた他の客達も頭を低くした。 「皆さんどうぞ私の事はお気になさらず。 今日はね,今仕事でいらしてる方の息抜きの時に召し上がっていただくものを探しに来たの。」 「それって……失礼ですが入江様……ですか?」 女将の目の色を変えてすぐに食い付いたのを見て千賀は口元を隠して口角を上げた。 「あら,ご存知?とても仕事が出来る方で主人が気に入って側に置いてるの。私共にもお優しいから屋敷の女子達の人気者で。」 女将は千賀の手前,必死に笑顔を崩さぬようにしていた。それを崩す為に千賀は更に続けた。 「でも彼まだ伴侶がいらっしゃらないんですって。そんな素敵な方がお一人なんてもったいないからこっちで良い相手をと……。」 「千賀様っ,その方は私と一緒になると約束してくれた方です!」 女将は千賀の言葉を遮って入江は自分の物と主張した。 千賀は白々しくおかしいわねぇと首を傾げた。 「こちらも縁談を勧めましたけど,どうしても傍を離れられない相手が居て,その方に生涯を捧げる覚悟をしたから妻は娶らないと仰ってたわ。ねぇ?」 「はい,入江様は木戸様の命令を受けてその方に仕えており,それを全うする為に一人を貫くと仰られてました。なので今の立場をお捨てになってこちらに婿に入るのは有り得ない事かと。」 千賀に振られ,淡々と話す侍女の言葉に女将は唇を噛んだ。 「私も彼に仕えて欲しいくらいだわ。」 「千賀様が仰ると入江様も断れませんね。」 「ふふっ木戸様に怒られてしまうわ。あっごめんなさい無駄話が過ぎたわ。確かねこのお菓子よ,彼が好きだと言ってたのは。」 千賀が指差した物を見た女将は目を見開いた。千賀が指したそれは前に三津が選んだのと同じ物だ。 「これを彼の為に包んでいただきたいの。」 「承知致しました……。」 女将は震える手でそれを包んだ。怒りなのか屈辱なのか分からない,どす黒い感情が渦巻いていた。 その様子を横目に千賀は他の客達ににっこり笑みを投げかけた。 「あなた方もよくここのお菓子を召し上がる?好きな物を教えてくださらない?うちの者にも是非食べてもらいたいの。」 千賀が次は何をするのか,女将は気が気じゃない。いつもなら簡単に出来る作業ももたついてしまう。 その様子を知りながら,千賀は素知らぬふりして緊張気味な客達と談笑を始めた。