いてもたってもいられない、というのがこういうことなのかと身をもってしらされた。
そしてやっと俊冬と俊春がもどってきた。
敗走する味方の軍の背中を護るため、かれらは本当に一番最後に戻ってきたのである。
有川から五稜郭にいたる街道というほどではないが、一番よく使われている道がある。その道を、有川方面から兵卒たちが流れてくる。
おれたちは兵卒たちの流れに逆らい、Accounting Services hong kong 有川へと向かいかけていた。
相棒が二人が戻ってくるのを察知し、おれに知らせてくれたのである。
すぐに副長に報告をした。すると、副長は身一つで駆けだした。
まさか、副長一人でいかせるわけにはいかない。
とりあえず相棒に副長の護衛を頼み、島田や伊庭たちに知らせにいった。
そうして、副長を追いかけたのである。
これで最後の一団らしい。
彰義隊か伝習隊か衝鋒隊か、兎に角どこかの隊の兵卒たちが副長に気がついたらしい。
一礼し、すぐ横を通過していった。
八名である。戦闘じたいの疲れと敗走するという精神的圧迫で疲れきったではあるが、だれも怪我はしていないようである。
よかった。
かれらは「疲れた」だの「負けた」などと、ぼそぼそといい合っている。それのつぶやきを背中できいた。
そんなことをいうだけの元気はあるということだ。
道上に二人の姿が視覚できたときには、相棒がすでに駆け寄っている。
「ぽちたま先生」
「ぽちたま先生」
そして、市村と田村もまた、すでに駆けだしている。
俊春が両膝を折り、相棒に抱きついた。
よかった。ちゃんと生きている。
心からほっとした。
駆けだそうとした瞬間、副長が駆けだした。
びっくりーっ、である。
副長でも駆けるんだ。
シンプルに驚いてしまう。
「当たり前だろうがっ!」
その瞬間、副長がこちらを振り向かずに怒鳴った。
だって、イケメンってあまり必死こいて駆けるって似合いそうにないんだもん。
って思っている間に、島田や伊庭たちも駆けだした。
「安富先生、いきますよ」
のんびりあるいている安富に声をかけてから、おれも駆けだした。ってか、ダッシュした。
「駆けるのは、愛しのわが子たちだ。わたしは駆けぬ」
安富の謎主張が、おれの後頭部にあたった。
っていうか、ついにかれのお馬さんたちはかれの子どもになったのか。
ダッシュしつつ、呆れかえってしまった。
前方を駆ける島田と蟻通と人見と伊庭は、あっという間に副長を追い越した。
ってか、副長はまだ五十メートルも駆けていないのに、もう息をきらしているのか?
追い抜こうとしたところで、副長がはぁはぁと息をきらしていることに気がついた。
当然のことながら、はぁはぁというのはなにかいやらしいことをやっているとか、みているとかの興奮によるものではない。
ただ単純に運動不足なだけである。
そりゃそうだよな。
あれだけ美味いものを喰いまくっているのに、自分はまったく動かないんだから。いや、訂正。口は動かしているか。
どちらにせよ、ガチで運動不足になるにきまっている。
体力的なことだけではない。に気をつかうとか頭をつかうなんてこともない。さらには、にストレスをあたえまくることはあっても、自分がそれを感じることはないし、思い悩むこともない。
つまり、肉体的にも精神的にも痩せるまではいかずとも、体型を維持するだけつかっていない。
はやい話が、運動不足の上に太ってしまったものだから、ちょこっと駆けただけでこんなに息をきらすわけだ。
自業自得とは、まさしくこのことであろう。
心の中でざまぁ、なんて嘲笑いつつ副長を追い抜かした。
その瞬間である。
「この野郎っ!」
な、な、なんと!
副長がおれの背中に飛びのってきたのである。
つい先日、木古内で自分が大鳥にされたように、である。
落としてはならない、というとしての当然の思いやりが頭の中にひらめいた。が、それよりもはやく、体が反応している。反射的に、副長の尻の下に手をそえておんぶをしていた。
ってかおれってば、よくぞひっくり返らなかったものである。
ということは、足腰が強くなっているということである。
すごいぞ、おれ。
とりあえず、自画自賛しておく。
「な、なんて暴挙を。おりてください。重すぎるんですよ」
こんなシリアスなシーンだというのに、こんなコントをやっている場合ではない。
副長をおんぶしたまま駆けつづけ、遠まわしに注意をうながしてみた。
「なんだと、この野郎っ!おれは太っちゃいない。何度もいっているだろうが」
「ちょっ……。痛いっ、痛すぎます」
つぎは、ぽかすか頭を叩きはじめるではないか。
「やめてくださいってば。太ったなんていっていません。重すぎるっていったんです」
「おなじじゃねぇか、この野郎っ!」
「危ないですって。おっことしてしまいますよ……」
そうだ。おっことしてしまえ。
重すぎる上に頭を殴られているんだ。
重みと暴力に耐えきれず、つい腕をはなしてしまった、なんてあるあるじゃないか。