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その手のひらには小さな花の形をした落雁

その手のひらには小さな花の形をした落雁。

 

 

「乃美さんから。食べられる?」

 

 

一つ指で摘んで口元に突きつけると三津は小さく口を開いた。

落雁を口に放り込んだ吉田は満足げに目を細めた。

 

 

「甘い……。」

 

 

三津の目元が微かに笑った。

 

 

「今日は出来るだけ傍に居る。もし一人がいいなら言って。」

 

 

「すみません……。」 https://www.easycorp.com.hk/en/accounting

 

 

「謝るな。今は心と体を休めろ。」

 

 

『すまない三津。弱ってるお前の傍に居られるのを好機と思った俺を許せ。』三津は小さく一度だけ頷いた。

 

 

「そうだな……。三津の傷が綻びだとしたら俺は今あて布だ。その綻びを一時的に覆っているだけだ。

 

その穴を縫い合わせてくれる糸は間違いなく桂さんだ。だがまだ縫い合わせて元に戻せる程に至ってない。

 

それでも桂さんが綻びを縫ってくれる時が来る。それを待つんだ。

 

必ずまた桂さんを受け入れられるようになるから今は休め。」

 

 

自分にとって桂は必要な人なんだと諭してくれる吉田の優しさに三津は何度も頷いた。その綻びを繕う役目が自分に出来たなら。

 

 

『その役目は俺じゃない……。だけどその役目が俺に変わる時を……待つよ。』

 

 

「そうだ着替え。」

 

 

桂を部屋に押し込んだ時に廊下に置き去りにしていたと思い出す。

廊下に出ると三津の部屋から取ってきた物と別に風呂敷包みが置いてあった。

中を開くと別の着物と小物たちが入っていた。

 

 

「桂さんが着て欲しい物を取りに帰ってたみたいだ。」

 

 

その風呂敷を三津の手に持たしてやった。

三津はその風呂敷に目を落とすと徐に抱きしめた。

 

 

『優しい人……。優しくて大好きな人……。』

 

 

その人に包まれたい……。

 

 

「着替えてもいいですか?」

 

 

「見てたらいい?」

 

 

「吉田さん……。」

 

 

少し怒気を含んだ低い声に吉田は口に弧を描かせた。

 

 

「少しの間出て来るよ。部屋は好きに使っていい。夕刻までには戻る。」

 

 

「あっ……。」

 

 

待ってと言う前に吉田は行ってしまった。

三津はゆっくり立ち上がると借りていた着物を脱いで自分の襦袢に袖を通した。

 

 

『これ似合うってめっちゃ褒めてくれたヤツ……。』

 

 

淡い藤色に白い花が控えめにあしらわれた着物。

元気しか取り柄のない自分を品よく見せてくれるから三津も気に入っている一着。

 

 

『見せたい……。』

 

 

これを着た姿を可愛いと褒めてもらいたい。

会いたい気持ちはこんなにも膨らむのに。何故それを自分自身が拒むのだろう。

 

 

 

 

 

「……とてもね……胸が痛いんだ。稔麿にね泣き言言うより三津の傷を癒やさなくてはと言われたから泣き言は口にしないと決めたけど……。

胸がね……痛いんだ……。」

 

 

すっかり肩を落とした桂は台所でサヤとアヤメに慰めてもらっていた。

 

 

「きっと三津さんが吉田さんを受け入れられたのはただ順番が先だったからやと思いますよ?」

 

 

「順番……。」

 

 

「えぇ,最初に三津さんが助けを求めたのが吉田さんだったから吉田さんの腕の中は安全だと体は認識したんです。」

 

 

桂はサヤの見解に黙って耳を傾けた。

 

 

「そしてまだ体は安全なのは吉田さんだけと勘違いしてるのではないでしょうか?

もう少し体の緊張が解けるまで様子を見るしかないのでは?」

 

 

『そして慣れている稔麿の匂いに包まれて更に安心感を得てるのか……。』「なるほど……。目の前に居ると触れたくなるが……堪えよう……。ありがとう少し前向きになったよ……。」

 

 

弱々しい笑みを残して桂は台所を出た。

 

 

「桂様三津さんに触れないと死にそうですね。」

 

 

アヤメはどうにかしてあげたくてうずうずすると体を揺らした。

 

 

「そうや,三津さん何か食べてくれはりますかね?」

 

 

「せやねおにぎりでも持って行ってみよか。」

 

 

サヤとアヤメはおにぎりを一つずつ握りお茶を持って三津の居る吉田の部屋へ向かった。

 

 

「三津さーん昼餉にしませんかー?」

 

 

アヤメの明るい声に静かに障子が開いた。