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山野と馬越を指すのだろう
山野と馬越を指すのだろう。桜司郎はくすりと笑うと、首を振った。 「二人で呑みに行きましたよ。私は気乗りがしなかったので止めました」 「そ、そうか。沖田さんは?」 「沖田先生は、局長のお供で出掛けられました」 「そうか……。……今、時間はあるか」  その言葉に頷けば、斎藤は目元を優しげに細める。このような表情をする人だったのか、と桜司郎は目を丸くした。 「良ければ、俺の買い物に付き合うてくれまいか。四条大橋の近くにある店に、刀を研ぎに出していてな。……そうだな、報酬は美味いと評判の団子でどうだ」 「団子…………。是非ご相伴に預からせてください」  嬉しそうに返せば、斎藤は決まりだなと言いつつ階段を降りる。桜司郎はその後を追い掛けた。  春の暖かさに感化されてか、すれ違う人々の表情は柔らかい。孝明帝崩御の凶報より立ち直ってきたのだろう。 「……こうして、あんたと街を歩くのは禁門……いや松原さんの件以来か」 「……はい」  どちらも忘れられない光景だった。焼け焦げた街並みに、絶望と悲しみに呑まれそうになった帰り道。  思えば、斎藤が居なければ松原を失った悲しみから立ち直ることが出来なかったのかも知れない。そのように暖かい一面を見せたかと思えば、谷の暗殺に関わる素振りを見せるなど冷酷な一面を持っている。 ──斎藤先生のことがよく分からない。一体貴方はどのような人なのですか。 やがて鴨川沿いの研ぎ屋へ到着し、桜司郎は待っている間、土手に座っていた。日が暮れかかり、そよぐ風が心地良い。 子宮肌腺症|一定要切除子宮?能自然懷孕嗎?醫生拆解子宮腺肌症常見徵狀、治療方法 | healthyD.com 近くを子ども達が駆け回り、楽しそうにはしゃいでいる。それを微笑ましそうに見遣りながら、桜司郎はあることに気付いた。 ──そういえば。近頃、沖田先生が子ども達と遊んでいるところを見ない。  それは秋か冬の頃からだったか。あれほど甘味と近所の子らと遊ぶことへ熱意を燃やしていたというのに、ぱたりと止んでしまった。  隊務こそこなせているが、時折物陰に隠れて苦しげに咳を漏らしているのを何度も見ている。だが、誰もそれを言葉には出来なかった。  新撰組でも最強の名を欲しいままにする、あの沖田組長が病に侵されているなど誰も信じたくないのだ。 ──私だって信じたくない。それに、まだ沖田先生からだと聞いた訳ではない。私の思い過ごしだってこともある。高杉さんがそうだったから、臆病になっているだけかもしれない……。 「……沖田先生」  眉尻を下げて言葉にすれば、背後から大きな影に覆われる。見上げれば、斎藤が立っていた。 「………あんたはいつでも沖田さんのことを考えているな」 「え?」 「何でも無い。待たせた。行くとしよう」  先々と歩いて行ってしまった斎藤の背を追う。いつもと雰囲気が違うことに違和感を覚えながら、着いて行った。  祇園の参詣道沿いにある茶屋の暖簾を潜る。そこは茶屋と小料理屋を兼ねているようで、小腹が空くような匂いが充満していた。  個室へ通されると斎藤自身は酒と草団子を頼み、桜司郎には茶とみたらし団子が出された。  一串手に取り、齧ればもちもちとした食感と共にほんのりとした甘味が広がる。 「あ……美味しい。美味しいです、斎藤先生」 「……そうか、良かった。俺のも食らうといい、ほら」  そう言うと斎藤は自身の前に置かれていた小皿から一串取ると、そのまま桜司郎の口元へ差し出した。それが予想外の行動だったと言わんばかりに、桜司郎は目を丸くしながら、頬さえ染める。 「───ほら」