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帰蝶に用意された部屋は寺の最も奥まった場所に
帰蝶に用意された部屋は寺の最も奥まった場所にあり、室内は装飾の一切ない殺風景な設えだった。 足元も漆塗りの床板だったが、次の間続きの部屋は十ニ畳ほどもあり、姫君が一泊するには十分な広さと思われた。 さっそく必要な道具類だけが室内に運び込まれ、帰蝶は三保野の手を借りながら、白い木綿の小袖に着替え直した。 殺風景だった室内の上座には、侍女たちによって藍色の毛氈が敷かれ、 その上に金襴で縁取りされた茵、毛氈の両脇には其々灯明が置かれていった。 帰蝶は茵の上に腰を下ろすなり 「のう三保野、織田とはどのようなお家柄であろうか?」 衣装を片付けている三保野に前触れもなく伺った。 「何故また急にそのような事を?」 「いや。信長殿との縁組が決まって以来、輿入れの支度や何やらで忙しゅうして参ったが、 よくよく考えてみると、婚家である織田家の事をあまりよう知らぬと思うてのう…。 人質同然とは申せ、私は信長殿の正室。婚家の事を何も知らずしてその家門を潜ったのでは、斎藤家の恥となる故な」にございますか」 三保野が得心したようにくと 「確か、信長殿の父上・信秀様は国持ち大名ではなく、未だに守護代家臣の身であられたな?」 「はい。元々尾張の地は守護職・氏が治めておられ、織田家はその家老であったと聞き及びます」 「されど、時の流れと共に主家である斯波氏が衰えていった」 「左様にございます。それ以後は織田大和守様(清洲織田氏)、織田伊勢守様の両名が、https://www.easycorp.com.hk/en/accounting 尾張を半分ずつに分けて治められたそうです」 「信秀様は、その両名いずれかのを務めておったそうじゃな」 「大和守様の御奉行にございました」 織田大和守にはその頃 同家三名の奉行が仕えており、織田因幡守家、織田藤左衛門家、そして織田家の信秀である。 「そこから信秀様は実力によって頭領の座にまで上り詰められたそうですが……決して堅固なお立場とは言い難いとか」 「どういう意味です?」 「私もよくは存じ上げないのですが、尾張の覇権をめぐって、お身内同士での争いが絶えないのだとか」 「…身内同士のう」 帰蝶は呟きながら、美濃の道三と義龍の事を思い出していた。 あの父と兄に限って内紛など起こる訳がないと信じていたが、例の噂の事もある。 間違いがなければ良いがと、帰蝶はただただ案じていた。 「──失礼致します」 ふいに入口の戸襖がスッと横に開き、外に控えていた侍女が平伏の姿勢で現れた。 「畏れながら申し上げます。姫君様、ご家老の平手政秀様がご挨拶にお見得でございます」 「まあ、平手殿が?」 「これは良きところへ参られましたな」 帰蝶と三保野は笑顔で頷き合うと、程なく、背を丸めながら室内に入って来た政秀を温かく迎え入れた。 政秀は帰蝶の御前に控え、静かに双の手をつかえると 「姫君様、道中まことにお疲れ様でございました。今宵はこちらでゆっくりとお疲れを癒され、明日の那古屋城入りにお備え下さいませ」 「有り難う存じます」